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2008.08.23

イスラエルの兵役拒否者たち

イスラエルからのニュース。Ynet の "Conscientious objector to IDF service jailed"、エルサレム・ポスト紙の "Youth jailed for refusing to serve on 'moral grounds'"。

パレスチナ占領に加担したくないとして、若者たちが兵役を拒否している。おそらく、毎年このような良心的兵役忌避者はいるのだと思うが、今年はグループで公開書簡を発表するなどして占領政策を強く糾弾しているそうで、イスラエル政府は例年にも増した厳しい措置で臨んでいる。19日に徴兵に出頭しなかった Udi Nir さんは、翌日、逮捕され、軍法会議で21日間の懲役に付せられた。おそらく、釈放後、またすぐ新たな出頭命令が出され、逮捕、収監が繰り替えされるだろうと考えられている。

徴兵拒否者を支援する New Profile という団体のページに、Nir さんたちへの応援メッセージの宛先や、イスラエル政府等への抗議の宛先などが載っている。以下は、同サイトからリンクされている若者たち(高校をこの夏、卒業した人たち)の公開書簡を日本語にしたもの。

高校を新たに卒業した私たちはイスラエルの占領と占領地内ならびにイスラエル領内で行なわれている圧制に対して闘っていくことを宣言します。私たちは、私たちの名のもとにイ衛隊によってなされているこれらの行為に加担することを拒否します。

私たちの拒否は、何よりも、イスラエル国家が占領地でとる分離と支配、抑圧、殺戮の政策への抗議です。私たちはこの抑圧と殺戮、憎悪の蔓延が決して平和をもたらさず、民主的を装う社会の基本的な価値と相反するものであると考えています。

私たちのグループのだれもが、社会活動の価値を高めようと考えています。私たちは、自分たちが暮らす社会に貢献することを拒否しているのではなく、占領と軍国主義的な仕組みの今のやりかた(市民権を握り潰し、人種によって差別を行ない、国際法に判して行動するやりかた)に抗議をしているのです。

私たちは、イスラエル社会を「守る」ためと称して行なわれていること(検問所、政治家などの暗殺、ユダヤ人だけが通行を許されるアパルトヘイト的な道路、夜間外出禁止令など)が占領や搾取の政策のためであり、占領地をイスラエルに組み込むために行なわれており、パレスチナの人民を激しく踏みにじるものであることに反対します。これらの行為は血が流れ出す傷に絆創膏をあてるようなものであり、一時的な限られた効果しかなく、紛争をさらに悪化させるものです。

領地とパレスチナ人の生活の糧を奪い取って入植地を作り、イスラエルを守れると考えることにも異議を申し立てます。さらに、パレスチナの町や村を分離壁で包囲して最低限の生活条件も収入源もないスラム街に変えようとすることにも反対します。

西岸地区のパレスチナ人に対する軍の屈辱的で侮蔑的な取扱いにも抗議します。デモ参加者への暴力、公衆の面前での恥ずかしめ、逮捕、治安や防衛の必要性とは無関係に行なわれる建物の破壊。どれも普遍的な人権や国際法に反しています。

壁と道路の封鎖がパレスチナ領を包囲しており、パレスチナの人たちの首に繋がれたロープのようになっています。司令官に保護されつつ兵士が犯罪を犯す姿はイスラエル社会を反映しています。破壊的で驚くべき社会は、隣国を敵ではなく共に歩むべき相手として受け入れることができないのです。

二つの社会の間で実効のある対話を実現するために、より整備されていて強い側の私たちにはもう一方を整備し強化する責任があります。もっと社会的かつ財政的に整備された相手がなければ、一方的な報復ではなく平和へ歩みを進めることはできません。しかし平和を願う市民を助けるかわりに、軍は精細を加え、人々をより暴力的な方向に押しやってしまっています。

私たちは、軍の占領統治が和平プロセスの進展に貢献するかどうかを考えようとする市民すべてに、自分自身で真実を見つけ、現実を歪める覆いを取り除くよう呼びかけます。統計を検証してみてください。自分にそして自分の前に広がる社会に人間的な面があるかどうか探してみてください。パレスチナ占領地内でイ衛隊が必要であるという私たちが根深く持っている思い込みを拭い去ってください。そして、非合理的で違法だと思う行為すべてに反対するために立ち上がってください。

人のいるところには必ず話し相手がいるものです。私たちは権力闘争や報復や一方的な消耗戦とは別の次元で対話を始めることを求めます。「話すべき相手がいない」という思い込みを拭い去りましょう。それによって勝者もない常に不満を抱えた状態が作られているのですから。もっと人間的な手法をとりましょう。

私たちは防衛の名のもとに傷つけたり、自由の名のもとに人を牢獄に入れることはできません。だから、道徳的であろうとすれば、占領のために軍務に就くことはできないのです。

シュミニツィムの手紙2008
署名者一同

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2008年 8月 23日 午前 12:00 | | この月のアーカイブへ

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コメント

一人の人間を、困難な政治問題の象徴(ヒーロー)として取り上げてしまうと、国民一人一人が取り組むべき問題であるということを忘れたり、無責任にも、その人にだけ極端な重荷を背負わせてしまうことがあるので、そういうことはできるだけ避けているつもりですが、気になった記事があったので紹介します。

イスラエル諜報機関モサドのトップだった”N”氏の娘Omerさんも兵役拒否をしているそうです。昨年の”N”氏の辞任と時を同じくして、Omerさんはパレスチナ問題を『パレスチナ側から見つめる』ようになったそうで、彼女の行動と父親の辞任とは何らかの関係があるのかもしれません。
http://www.thefirstpost.co.uk/45588,features,conscience-of-the-israeli-spymasters-daughter-

彼女の立場では相当の勇気と覚悟がいることでしょうし、家族もつらい立場に追い込まれていることでしょう。言うまでもなく、最大の犠牲者は60年も故郷を追われ、今も人権蹂躙の扱いを受けているパレスチナの人々ですが、イスラエルの人々、特に若者やその家族関係にも深い亀裂や苦しみを与えていることに気づかされます。

なればこそ、対岸で見物している国が、自己満足の「国際協力」の名の下に、戦争を長引かせることに荷担しているのは、醜悪以外の何ものでもないと思います。パレスチナでも、イラクでも、アフガニスタンでも。金融危機やの政界再編のどさくさに紛れて、こそこそと醜悪な議案が可決される動きがあるのは、私たちの無責任さゆえんです。

投稿: こすみれ | 2008/10/12 18:00:41

こすみれさん、

とても興味深い記事のご紹介、ありがとうございます。最後のところで記者が自分の息子がもうすぐ兵役に就くことに触れ、彼が兵役を拒まないのも Omer さんが拒むのも、どちらも理解できる、と結んでいますが、私がその立場だったら、頭を抱え込んでしまっていると思います。ものすごい圧迫感ですよね。

こすみれさんがおっしゃるとおり、何の圧迫感も感じず、のほほんとして重大な判断を国会議員に任せっきりにしている私たちはなんと無責任なのでしょう。

投稿: うに | 2008/10/13 0:17:16

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