想像上のチャーチル
笠原十九司さんの「南京事件論争史」(平凡社新書、2007年12月刊)を読み始めた。副題に「日本人は史実をどう認識してきたか」とあり、「明白な史実がなぜ問題とされるのか。否定派のトリックを衝く、『論争』の全経過。」と書かれたオビが巻いてある。
今読んでいるのは、まだ、「論争」が始まる前の東京裁判のところ。弁護側が最終弁論の際に提出した弁駁書という文章が、「現在もさかんに流布されている南京事件否定論の主要な主張がほぼふくまれている。いってみれば、現在の否定論の観点と主張、論法がすでに出そろった『否定論の原形』といえる」(p.82)という紹介とともに引用されている。これを読むと、否定派と言われる人たちが60年間、馬鹿の一つ覚えのように同じお題目を繰り返してきたのだということがよく分かる。
そんな本といっしょに読むとなかなか味わい深い話を見かけた。イギリスの大手タブロイド紙 Daily Mail の(と言った時点で既にあやしいのかもしれない。どういう姿勢で読むべきかは nofrills さんのブログを参考に) "Challenge Churchill! One in four think Winnie didn't exist (but Sherlock Holmes did)" という記事からたどって行った、UKTV というテレビ局による調査 "Is Robin real?"。このテレビ局では現在ロビン・フッドに関する番組をやっているらしく、それにちなんで実施されたもののようだ。
この調査によると、イギリス人の過半数はアーサー王、シャーロック・ホームズ、ロビン・フッドなどが実在の人物であった、あるいは、これらの人物に帰されている伝承が史実だ、と考えているらしい。逆に、ほぼ四人に一人が英国史上重要な人物であるチャーチル元首相と看護師のナイチンゲールが想像上の人物だと思っていることも分かった。
うーむ。南京事件にせよ性奴隷の問題にせよ、「なかった」と言う人たちは何らかの動機のもとに「歴史修正主義」という大仰な思想を実践しているのだと考えていたのだが、あの人たちは、もしかすると、単なる馬鹿なのだろうか。
2008年 2月 5日 午前 12:00 | Permalink | この月のアーカイブへ
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コメント
うにさん、こんにちは。トラックバックをお送りしたのですが、seesaaの管理画面でのステータスが「不明」と出てきてしまい、こちらで拝見してもやはり送信できていないようなのでコメントします。
で、本題ですが、デイリー・メイルがあたかも「英国人全体からサンプルを抽出して行なった調査」であるかのように書いているUKTV Goldの調査は、「20歳未満の3000人を対象に実施した調査」です(テレグラフはそこをしっかり報じていました)。UKTV Goldの記事を見た感じでも、アンケートの項目の選択肢は「実在の人物だ/架空の人物だ」の二択ではなく、「わからない」というのがあったようで、その「わからない」という答えがUKTV Goldの都合にあうように解釈されているフシもあります。番組の宣伝だということのほかは、よくわかんない話です。
投稿: nofrills | 2008/02/05 14:31:03
nofrillsさん、トンデモな話に巻き込んでしまって済みません。
UKTVの記事の下から二つめのパラグラフがくせ者ですね。"The research showed that the nation's under 20s are lacking the most when it comes to basic historical knowledge." の "most" を他の年齢層との比較と解釈したのですが…
で、この段落に出ている20歳未満のチャーチルとナイチンゲールに関する数字(21%、27%)が、その下のトップ10の表(23%、23%)と異なるのも、調査対象が20歳未満だけじゃないように思えるんだけどなあ。
いくらなんでもあやふやすぎますよね、この発表。
投稿: うに | 2008/02/05 15:18:14
うに様、お久しぶりです。
くしくも今日は、うにさんが言及してくれた伊寧大屠殺(グルジャ事件)の起こった2月5日でございます。
以前にラビア・カーディルさんの講演の応援のメッセージいただきましてありがとうございました。さて、中国の人権問題に対する運動が「反中華的」な傾向があるというお叱りを受けましたが、状況は変わりつつあります。
ラビア・カーディルさん来日講演を主催したのがアムネスティ日本、そしてサポートされた水谷尚子先生は世界や週刊金曜日にも寄稿経験があり、またテレビでほとんど唯一報道したのがニュース23であります。ブログの世界でも論客の鷹嘴さんやジェンダー研究者の遠山さんらが声をあげてくれました。
そういう変化した状況の中でもうにさんがまずウイグル問題を良識的に最初に取り上げていただいたことは忘れません。
これからも何かとご教示いただければ幸いです。それでは。
投稿: kok | 2008/02/05 23:45:46
kokさん、
コメントありがとうございます。ラビア・カーディルさんの来日でウイグルの問題は一気に認知が高まったようですね。
私、知識が足りず、なかなか成果が出せませんが、読んでいるニュースサイト等でウイグルのことが取り上げられるたびに、記事にできないか、考えています。
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: うに | 2008/02/06 21:55:46