京都議定書から10年
京都議定書採択10周年にあたって立命館大学で開かれた「『低炭素社会シナリオ2050』と日中印の役割」というシンポジウムにラジェンドラ・パチャウリ(Rajendra Pachauri)さんの話を聞きに行ってきました。パチャウリさんは今年ノーベル平和賞を受賞した国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change)の議長です。
基調講演の中でパチャウリさんは、地球温暖化が人為的な原因によるものとする考えが主流になったことなどにより、2007年が「気候変動の年」として記憶されるだろうと語りました。削減量の少なさやアメリカの離脱を許したことなどを京都議定書の弱点として総括し、今後は炭素の価格化などの介入が必要であると述べていました。バリ行程表については、数値目標が明記されなかったとは言え、その論議に多くの時間がさかれたことは無駄にはならないだろうと、肯定的な評価をしていました。
続くパネルディスカッションはひどいものでした。環境省の小島敏郎さんは、バリ会議の間に日本が「今日の化石賞」を受賞したことに関して全く反省するようすを見せていませんでしたし、安倍前首相の提唱した「美しい星50」提案に沿った発表をしているにも関わらず、「京都議定書で日本が合意した6%の削減は、温室効果ガス排出量の0.5%の削減と、排出権の買い取りなどによる5.5%であって、それは実現できるだろうが、その後の削減は極めて状況が厳しい」という、最初からあきらめているような話でした。中国の国立エネルギー研究所の前所長である周大地さんも、2050年までに50%削減といった目標が現実的であるか懐疑的なようでした。電源開発株式会社の北村雅良さんは、同社が開発している石炭火力発電における排出抑制技術の宣伝に来ていたようでしたし、早稲田大学の榊原英資さんは、そういった技術をインドに売り込むためにはODAなど政府の力が必要だという話ばかりでした。
コメントを求められたパチャウリさんは、これらの一般的な言説からは欠けている点として、発展途上国では20億人にのぼる人たちが電気などの現代的なエネルギー供給の恩恵を受けずに暮していることを指摘しました。このような人たちを現状のままにとどめおくのは不公正。通常の発想ならば、大きな発電所を作って、これらの人々の住む田舎に送電するという計画をたてるのだろうけれど、本当に必要なのは、風力とか太陽光による、分散的、脱中央的なエネルギー供給である、というのがパチャウリさんの考えでした。学ぶべきものが多くある話だと思いました。
会場が眠くなるほど暖房が効いていたり、階段が封鎖されてエレベータだけが使えるようになっていたりしたのは、ちょっと変だなあと思いました。パチャウリさんのお話以外の面では、なんか納得のいかないところの多いシンポジウムでした。
2007年 12月 21日 午前 12:00 | Permalink | この月のアーカイブへ
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