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2007.03.28

あえて安倍首相の謝罪を評価する

3月26日の参議院予算委員会での吉川春子議員(共産、参議院比例)と安倍首相らの応答(ビデオ、5時間52分ぐらいから)は、

質問:「安倍総理は3月1日の夜、官邸で記者団の質問に答えて、93年の河野官房長官談話について『当時定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ』と語られました。そうですか。」
答弁:「すでに今まで何回か答弁を申し上げているわけでございますが、私は河野官房長官談話を継承していくことを申し上げているわけでございまして、そしてまた、慰安婦のかたがたに対しましてご同情を申し上げますし、また、そういう立場に置かれたことについてはお詫びも申し上げてきたとおりでありまして、今まで答弁してきた通りであります。」

といった感じの、はぐらかしの連続で、安倍首相や麻生外相の不誠実きわまる態度に腹を立てずに見ることはできないが、質問枠の14分全てを使って吉川議員が冷静に追求を続けたことは、高く評価できると思う。

とりあえず、1993年の河野談話(外務省のページ)を、

長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

という事実認定を含めて継承すると明言させたことや、3月3日の記事で取り上げたオハーンさん(『オランダ人「慰安婦」ジャンの物語』という自伝が日本でも出版されていることを最近知った)の強制連行の事実性を認識していると明言させたこと、そして「内閣総理大臣としてお詫びを申し上げている」と言わしめたことにより、政治的、外交的には、ちょうど一か月ほど前に歴史修正主義に染まった国会議員たちが「河野談話の見直し」を口にし始める前の状態にまで戻ったことになる。市民の言説のレベルでは、安倍首相の引き起こした混乱の中で「慰安婦問題はでっちあげだ」といった世間知らずの俗説を何十歩も後退させることができたと言えるはずである。

今、私が自信なげに「はずである」と書いたのは、この日の安倍首相の「お詫び」が、日本国内のメディアでは、下村博文官房副長官(自民、衆議院東京11区=板橋区)の「直接的な軍の関与はなかったと認識している」という発言にかき消されてしまって、あまり目立たない扱いになってしまったからだ。妄想の中で生きている人たちは、自分たちの敗北に気がついていないのかもしれない。

その一方で、国外のメディアでは、「安倍が謝罪した」という部分が強調されて報じられている(例えば、APの "Japan apologizes to WWII sex slaves" やBBCの "Japan PM apology on sex slaves")。これによって今後は、じゃあ残された補償の問題はどうなるのだ、という点に話が転じていくのであるが、それに対応しなくてはならない安倍首相がこのままでは全然異なった言説を奉ずる国民との板挟みになることは目に見えている。

私たちの目からすれば、安倍首相の“謝罪”は甚だ不十分なものだ。しかし、私たちはこれを新たな出発点として、若き日に人権を蹂躙され、その痛みとともに生きてきた元慰安婦のかたたちが、その残された短い年月の中で少しでも正義がなされることを見届けられるようにしなくてはならない

そのためには、安倍首相が謝罪したのだということ、そして今までよりもわずかながらも一歩踏み込んだ発言をしたのだということを評価し、それをより多くの人の記憶に刻み、妄想的な歴史観を持った人たちが彼の足を引っ張らないようにしなくてはならないと思う。そう思って、これを書いている。

米下院での決議を促す署名も続いている(署名文の和訳はこちら)。さまざまな国に住む800人もの人々がわずか2週間のうちに名を連ねた。これをお読みになっているあなたもこの輪に加わってくださるよう、私からも今一度お願いしたい。

(ちょっと長くなりすぎたので、ぜひとも伝えたい部分をハイライトしてみました。うーん、いまいち。)

(足を引っ張る陣営の人たちからのコメントやトラックバックはお断りします。こう書いておいてもきっと来るので、かなりざっくりと消します。微妙な書き方だと、足を引っ張る意図がなくても消してしまうかもしれません。お気を付けて。)

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2007年 3月 28日 午前 12:00 | | この月のアーカイブへ

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コメント

うにさん、トラックバックありがとうございます。参議院予算委員会のビデオを拝見して、たいへん参考になりました。吉川議員は確実に安倍首相を追い詰めてましたね。国際世論の追い風もあり、安倍首相から「内閣総理大臣としてお詫びを申し上げている」という言葉を引き出せたことは一歩前進ですね。

投稿: 山木 | 2007/03/28 12:11:27

山木さん、
コメントありがとうございました。それにしても、安倍首相や麻生外相の答弁、ひどいでしょう?

投稿: うに | 2007/03/28 21:36:53

うにさん、同感です。二人とも明言を避けることに終始しているせいか、何を言ってるのか意味不明でしたね。あんな言い訳は国際社会で通用する訳ないので、今後安倍首相を擁護する人は減っていくと思います。それから中国山西省慰安婦の件ですが、「被害女性は日本軍により拉致され慰安婦にさせられた」という東京高裁の認定についても、安倍首相は「暴論」「法律上重要ではない」などと答えてましたね。短い答弁の中で「河野談話」という最低限の建前も守れない態度に、幼児性を感じます。まるで"駄々っ子"でした。

ところで今朝、署名を見たら900を超えてました。↓
http://www.gopetition.com/signatures.php?petid=11466

決議案の採決は、安倍首相訪米後の5月以降らしいですね。それまでに一人でも多くの人が署名してくれることを私も願っています。

投稿: 山木 | 2007/03/29 11:32:55

山木さん、
起草者のGalangさんは、安倍首相が来るするまでに1,000人に届くだろうかと心配していらっしゃったのですが、大丈夫そうですね。よかったです。
採決は訪米後ですが、安倍首相の訪米に合わせて委員会が何らかの行動を取るだろうという情報があります。

投稿: うに | 2007/03/29 23:58:14

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