慰安婦たちは問う
アジア太平洋戦争における慰安婦の問題に関する安倍首相の3月1日の発言は「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」というもので、新聞の解説によると、これは昨年10月6日の衆議院予算委員会の答弁の中で、安倍首相が「いわゆる狭義の強制性と広義の強制性があるであろう。つまり、家に乗り込んでいって強引に連れていったのか、また、そうではなくて、これは自分としては行きたくないけれどもそういう環境の中にあった、結果としてそういうことになったことについての関連があったということがいわば広義の強制性ではないか、こう考えております」と述べたのに敷衍していて、「家に乗り込んでいって強引に連れていった」事実を裏付ける証拠はない、という意味らしい。
本当にそれが問題の本質なのだろうか、と思ってしまう。例えば一昨日の記事で私が引用した証言は、強制収容所から女性が連れ去られた事例であるが、「家に乗り込んでいった」わけではないから、当てはまらないということだろうか。あるいはここに、占領下のフィリピンで、学校を訪れた日本兵たちに歌を歌って「歓迎」する行事に参加させられたら、大変よかったので表彰するから宿営地まで来いと言われ、それを信じて出かけて行き、4日間にわたって日本兵たちに強姦された14歳の少女の話がある。これも単に騙されて出かけていったわけだし、慰安所に送られる前に逃げ出せたのだから全く違う話だということだろうか。
漠然とした比較なのだけど、市役所の職員が飲酒運転で人をはねたら市長がお詫びの会見をしたりする。自民党の改憲案には犯罪被害者の権利の尊重が謳われていたりする。それに比べて安倍首相の意識には被害者への配慮という視点があまりにも欠けているように私は思う。
フィリピンの元慰安婦支援団体の代表は「私たちにとってみれば、よかれ悪しかれ、これはあなたがたの歴史なわけです。あなたがたが責任ある政府だと言うのなら、事実を受け入れ、真実であることを認め、説明責任を果たしてください」「できるものなら、これらの女性たちが売春婦の烙印を押されるために喜んで出かけていったということを日本政府は証明すべきです」と述べている。
彼女たちが求めているのは、軍がやったのか民間の委託業者がやったのかを究明することなどではない。泣き叫びながら連れて行かれたか騙されて連れて行かれたかを弁別することなどではない。彼女たちが欲しているのは、行なわれた不正義に関し、それをわずかにでも義なる方向へ向けようとする努力なのだ。
2005年のデモでフィリピンの元慰安婦であろう人が掲げているプラカードの写真(非商用の複製は自由とされている)を見た。「正義はいつなされるのか? すべての被害者がいなくなった時だというのか?」。私も問いたい。
2007年 3月 5日 午前 12:58 | Permalink | この月のアーカイブへ
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まず、わたしは安倍総理は危険だとして忠告をしていた。
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前提となる対アジアという意味で、わたしは例えば中国の軍拡が過度にならないか注視するということには賛成で、なんでも日本はダメ、中韓はいいという姿勢は全く持っていない。ただしその場合でも、行き過ぎた論で刺激的な牽制をし... 続きを読む
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コメント欄が盛り上がっているときにこんなネタをすると、もっと盛り上がるかしらん。それにしても、日本人って一般的に「きれい好きな国民性」とかって言われている(うぬぼれてる?)んじゃなかったっけ?ま、きれい好きのワタクシは、小まめにお掃除いたしますわよん。
3月1日(三一独立運動を記念した日で韓国の祝日です)のハンギョレ新聞の社説をどうぞ。
“河野慰安婦談話”否定は自分の顔にツバ吐く行為
日本帝国が行った侵略戦争で、旧日本軍の性奴隷となることを強要された軍慰安婦問題と関連し、動員の強制... 続きを読む
受信: 2007/03/05 17:48:04
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「Apes! Not Monkeys!」さん提唱の、映画 Nanking に対するネガティヴ・キャンペーン(および関連ブログへの荒らし行為)に反対するインターネット市民の共同声明への署名のお誘いが、うちゃさん、ハムニダ薫さん、はにかみ... 続きを読む
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前回に引き続き、今日も英国報道機関の記事を訳しちゃいましょう。 2007年3月2・3日の BBC World Service から 3月2日分 安部 性奴隷の「強制」に疑問を呈す 日本の安部晋三首相は、女性たちが第2次世界大戦中に... 続きを読む
受信: 2007/03/05 21:04:36
» 漂泊の民・道みちの輩(ともがら) トラックバック アッテンボローの雑記帳
隆慶一郎の小説に「影武者徳川家康」と言う作品がある。原哲夫の作画で「週刊少年ジ 続きを読む
受信: 2007/03/05 23:30:32
» 従軍慰安婦討論小林よしのり トラックバック 右派社民党公式ブログ
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受信: 2007/03/17 23:45:40
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コメント
うにさん、こんにちは。
昨日、私はドキュメンタリー映画「ガイサンシーとその姉妹たち」の完成記念上映会に行ってきたのですが、その映画では、いままで言われてきた慰安所ではない、山奥の日本軍の駐留地で行われた強制連行の証言を、被害者のおばあさんたちや村の人、旧日本兵のインタビューから採っています。
でも相変わらずの政府の発言はげんなりします。私は、これから詳細を本のほうで読んでいこうと思っていますが、是非多くの方が映画をご覧になることをお勧めします。
投稿: pianocraft | 2007/03/05 10:15:38
pianocraftさん、
映画のご紹介ありがとうございました。シネ・ヌーヴォーに観に行けるといいのですが…
ところで、pianocraftさんのブログからたどっていった先の某ブログには、未明まで打ち上げをやったと書いてありますが、その後で映画を観にいったんですか? タフだな~。
投稿: うに | 2007/03/05 14:27:24
こんにちは。はじめまして。
写真に一番大きく写っているプラカードを持っている女性はプリシラ・バルトニコさんというおばあさんです。1年前にマニラでお話を聴く機会に恵まれました。
「思い出すので本当は話したくない、でも話さなければならない」と前置きされ、住んでいた村で日本軍によるゲリラ掃討が始まり、隠れていた従姉妹とつかまってレイプされたこと、抵抗した従姉妹が殺されたため怖くて抵抗できなかったこと、連行されて昼間は飛行場の建設にかりだされ、夕方からレイプされた日々のこと。炎天下の重労働に、ある日我慢しきれずに日本兵に水を要求すると、その兵士はコップに水を持ってきて自分の目の前でそれを地面にこぼし、残り水を顔にぶちまけられて、ものすごく嫌な思いをしたこと・・・そういったことを語ってくれました。話の最後に彼女はこう言いました。「私は正義のために闘いたいと思っているし、皆さんも一緒に闘ってくれると信じています。」
話の後に案内された彼女の部屋には、自作の大きな風景画が飾ってありました。絵を描くのが好きだそうです。ダンスもお上手でした。穏やかな笑顔が印象的で、お元気そうに見えたのですが、私たちが話を聴いてからわずか3ヵ月後の昨年4月21日に、亡くなられました。
たまたまうにさんの転載された写真が目にとびこんできて、懐かしいのと、日本の現状への怒りとがないまぜになり・・・それで少し長い書き込みになりました。すみません。
ガイサンシー、本も映画もいい内容です。そして何より監督が素晴らしい方です。
これからもこちらのブログ、読ませていただきます。
投稿: しゆ | 2007/03/09 18:07:16
しゆさん、
貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございます。写真の女性は正義を見ることなく、亡くなられてしまったのですね。プラカードの言葉が、なおのこと重く感じられます。ご冥福を祈ります。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: うに | 2007/03/09 19:39:07
マイク・ホンダ議員はチャイナロビーとコリアロビーから大量の献金を受けているそうです。
勿論そこには中国共産党の意思と北朝鮮の意思があります。
さらに海外の北朝鮮系団体と関係が深く、日本の朝鮮総連やカナダの北朝鮮系団体などによばれ、彼らの利益を擁護する運動を展開してきました。
今回の決議案は、安倍首相訪米に対する牽制と、今後の日朝協議をにらんだ牽制、日米離反、さらには世界中に反日感情を醸成する為の、政治的な行動です。決してマイク・ホンダ氏の義侠心や正義感から出た物ではありません。
日本国内に於いて、この問題をことさら騒ぎ煽る左翼系の人々は、意識無意識に関わらず、中国共産党と北朝鮮の手のひらで踊っているのです。
慰安婦の強制連行は全て、嘘と嘘と知りながら報道した「誤報」から始まりました。
http://www.youtube.com/watch?v=EoAmItpLGuE
↑『朝日新聞がつくった歴史』
慰安婦問題に関心のある日本人なら見て下さい。
慰安婦問題が発展して行った過程を解りやすく解説しています。
組織的な強制連行があったと言う人も、これを聞いてその疑問に答えるべきです。
投稿: 強制連行 | 2007/03/16 2:34:15
強制連行さん
まず、ロビー活動については、日本も決議阻止のために国会では話せないような形の活動をやっていると外相が先週答弁していますから、同じようなものだと思います。
次に、あなたのコメントの後半についてですが、強制連行の有無が重要ではないという趣旨の記事に「組織的な強制連行があったと言う人も、これを聞いてその疑問に答えるべきです」という全く無関係のコメントするような人にこの場を貸すつもりはありません。
投稿: うに | 2007/03/16 23:01:31
とにかく慰安婦問題については、小林よしのり著「戦争論2」の「総括・従軍慰安婦」を読んでみてほしい。
あらゆる関連本の中で一番良い。
この問題の全容も把握できる。
投稿: a | 2007/03/20 14:12:05
aさん、
せっかくですが、小林よしのりは遠慮します。他の本を読んで、ものすごく時間を損した気がしました。お好きな著者をけなして、すみませんね。でも、どうしても相性みたいなものがあるんだと思います。
投稿: うに | 2007/03/20 21:45:43
っていうか、このaさん、同じ内容をあちこちのブログにコピペするだけで他人を説得できると思っているのかなあ...。
「URL貼り付け型」の亜種ですね、aさんのコメントは。
投稿: 村野瀬玲奈 | 2007/03/21 0:37:53
私も、昨夜コメントを書いてから、ほかでも同じ人が同じコメントを書いているのを見て、まじめに取りあって損したと思いました。いやですね、こういうの。
投稿: うに | 2007/03/21 22:22:28