マニラの人質劇
28日にフィリピンで遠足に向かう保育園児たちが乗ったバスが乗っ取られる事件が起こった。市役所前の広場に駐めたバスの中から、手投げ弾などで武装した犯人が訴えた人質解放の条件は、人質となった貧しい子どもたちに教育の機会を保証すべく経済的な援助を行なうこと、政府が腐敗の問題により真剣に取り組みこと、などであった。政府側が要求の一部を飲み、夜になって犯人は投降し、子どもたちは無事救出された。
犯人は Jun Ducat さん。建設会社社長、56歳。貧しい街に生まれ、努力によって会社経営者にまでなり、100人もの恵まれない子どもたちに教育費の援助も行なっていたという。地元での信頼は絶大で、「自分の子どもが人質事件に巻き込まれて、最初はパニックでしたが、デュカットさんが犯人だと聞いて、安心しました」「処分を求めるつもりはありません」などという親たちの声も紹介されている。貧民街の住民たちからも「自分たちの暮らしの置かれた現状に社会の目を向けてくれた」と評価する声もあがっている。バスを乗っ取って、まずファストフードのドライブスルーで子どもたちのお弁当を買った、などとも書いてある(フィリピンの Inquirer 紙 "Ducat: Not your typical hostage-taker"、アルジャジーラ "Hostage drama divides Philippines" など)。選挙に出ようと計画してもいたらしい。
私は不謹慎なので、世の中で痛ましい事件(例えば、子どもが殺されたり、野宿者が襲われたり)が起きるたびに、「何か犯罪を起こしたいのなら、もっといい犯罪を起こせばいいのに」などと思ったりする。独りよがりではない「いい犯罪」なんてないのかもしれないのだけれど、今回の事件は、だれも傷つかなかった上に、当局側に施策の改善を図っていくことを約束させることもできたという点では、とても考えさせられる出来事だった。
写真は、フィリピンの政治で検索して見つけたものです。今回の人質劇のデュカットさんは無所属で立候補するつもりだったみたいなので、この写真の政党とは違うと思います。写真は igorms さんが Flickr で CC-by-nc で公開しているものを使わせていただきました。
2007年 3月 31日 午前 12:00 | Permalink | コメント (2) | トラックバック (0)