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2006.02.07

タイの民主主義と本

ではタクシン首相の家族が大量に保有していた通信会社のを売却して多大な利益を得たことなどをめぐって、首相の辞任を求める抗議行動が起こっていると伝えられています。新聞報道ではタクシン・シナワトラ首相の「誰でも(株を)売買できるのがグローバリゼーションだ」「私に辞めろといえるのは国王だけだ」などの強気の発言が目を惹きます。

昨年末にバンコクに行った時、本を何冊か買ってきたのですが、その中で一番おもしろかったのがウィン・リョウワーリン(Win Lyovarin)さんという作家の Democracy, Shaken & Stirred という小説です。1994年刊行。私は英訳を読んだのですが、タイ語の原著では『平行線上の民主主義』という意味のタイトルだそうです。1995年にタイの National Book Award を受賞、1997年に ASEAN の South East Asia Write 賞というのに選ばれています。

1920年ごろに生まれた二人のタイ人が、1933年の革命、中の日本による占領に対する抵抗運動、1970年代のクーデター、そして1992年の政変など、歴史の要所要所で出会い、友情を深めていくという話です。主人公の一人が警視総監、もう一人が貴族から転じた山賊で、二人とも射撃の名手という、ありえそうもないというか、小説ならではのあまりにもベタな設定で、展開も(水戸黄門や刑事コロンボのごとく)必ず各章の最後でどんでん返しがあることが分かっているので、安心してはらはらどきどきできます。自分の国の政治や歴史を描いた小説だと、いろいろ知識があるぶん、楽しめないところもあるんじゃないかと思いますが、タイのことをほとんど何も知らない私は、たっぷり楽しませてもらいました。

数々の政変や独裁を通じて、政治的な腐敗が蔓延したり、うまく権力におもねる者たちが暗躍したりする中、徐々に市民の意識が高まり、が根付いていくようすがとてもうまく描かれています。小説の最後は1990年代が舞台で、「軍人たちの時代は終わった。これからはビジネスマンが政治を牛耳っていく時代だ」「いつの時代にもこうやって自分の利益のために政治を動かそうという奴らがいるものだ」といった、ちょっと醒めた会話が交わされます。この予見が極めて的確であったことを、2006年のタイ政治の現状は示していると言えましょう。

タイの民主主義と本に関しては、今、もう一つ興味深い動きがあります。アメリカの Yale University Press が5月に The King Never Smiles という本の刊行を予定しているのですが、この本がプミボン国王に対して不敬であるとして、タイ政府の圧力により、タイ国内からイエール大学出版のウェブサイトへのアクセスが制限されているもようです(Insider Higher Ed の記事)。王室に対する批判は、やはり今でも強くタブー視されているのでしょうか。

2006年 2月 7日 午前 12:00 | | この月のアーカイブへ

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» The King Never Smiles トラックバック Ban-Bang-Bangkok!
王の陰と陽 5月に出版予定となっている、アメリカのジャーナリストでタイに在住している(現在も?)ポール・M・ヘンドリィんいよるプミポン国王の生涯にを書き綴った「THE KING NEVER SMILES(王様は決して笑わない)」に侮辱的な記述があるということで、この本を紹介しているアメリカ・イェール大学のウェブサイトへタイからアクセス出来ないようにされているそうです。<tt-bear@Blog>... 続きを読む

受信: 2006/02/13 17:08:05

» 政府によるアクセス制限 トラックバック タイつながり
インターネット上では国境なんかないようで、実はある。 ある国では、思想的なキーワ... 続きを読む

受信: 2006/03/10 21:13:23

コメント

Ban-Bang-Bangkok!へのコメントありがとうございます。
今まで不敬に対する話題はタイ国内でもニュースになるのですが、The King Never Smilesについては、全くタイ国内では話題になってません。
YUPへのアクセス制限は、タイからの購入を規制する目的が強いように感じます。作者が現在もタイ国内在住でしたら、確実に話題になると思いますが...。でも、アメリカ人だったらFTA等交渉中の案件も有りますので、判りませんね。

投稿: 大川ひろあき | 2006/02/14 19:00:01

大川さん、ありがとうございます。大川さんのブログの14日の記事(タクシン首相辞任要求デモの写真)も、非常に興味深く拝見しました。

投稿: うに | 2006/02/14 22:59:51

タクシン首相に関する記事は、
タイの地元新聞を読むさん(http://homepage3.nifty.com/jean/ )、
tt-bearさん(http://ameblo.jp/tt-bear/ )、
siam_breeezeさん(http://siam-breeze.seesaa.net/
が書かれていますので参考にしてください。

投稿: 大川ひろあき | 2006/02/20 18:32:56

大川さん、情報源をお知らせくださり、ありがとうございました。今ではまさかクーデターとかはないと思いますが、なかなか目の離せない状態ですね。

投稿: うに | 2006/02/21 22:42:03

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