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2005.11.15

現実主義者は戦争を望まない

先月下旬の The New Yorker に載っていた Jeffrey Goldberg さんの "BREAKING RANKS: What turned Brent Scowcroft against the Bush Administration?" を読んだ。ブッシュ(41代大統領)の国防顧問だったブレント・スコウクロフト氏がなぜブッシュ(43代大統領)のイラク戦争に反対しているかを、インタビューなどを通じて描いている。

あまり単純化してしまうといけないのだが、要するに、(1) フセイン政権が 9/11 をはじめとするテロと関わりを持っていたという証拠がない中で、(2) 「民主化」を旗印にイラクに戦争をしかけるのは多大な犠牲を払うことになり、国益にかなわない、というのがスコウクロフト氏の考えだ。同様な考慮から、1990年8月のイラクによるクウェート侵攻に端を発する1991年初頭の湾岸戦争においても、フセイン政権の打倒は目標とされていなかったため、ブッシュ41はフセインを深追いすることはなかった。非常に現実主義的(realist)な判断がくだされたわけである。

それにひきかえ、ブッシュ43は、いったん侵攻したら金のかかる占領統治をしなくてはならず、撤退がむずかしくなることが明らかだったのに、体制変換(regime change)への宣教師のごとき熱意で、避けるべき戦争を始めてしまった。仮に善意の支援であってもブッシュ41のソマリアへの介入のように泥沼状態になってしまうことがあることを見知っているにもかかわらず、である。

ブッシュ41からブッシュ43にかけて、政策上、思想上の連続性があるように見えて、実は現実主義から妄想的な新保守主義への断裂がある、ということらしい。ブッシュ43政権の政策決定に関わっている新保守主義者たちやその支持者たちを除けば、アメリカのイラク侵攻と占領が現実的な政策ではないということは、立場の左右を問わず、アメリカの国内、国外を問わず、一般的かつ妥当な認識なのだということを私たちはスコウクロフト氏の発言から再確認することができるだろう。

(このニューヨーカーの記事だけを見ると、スコウクロフト氏が非常に思慮深い人物であるようにも見えるのだが、そもそも彼がブッシュ43と袂を分かつ宣言となった2002年8月のウォールストリート・ジャーナル紙への投稿 "Don't Attack Saddam" を読むと、彼もまたフセインが大量破壊兵器を持っているに違いないと考えていたようで、当時の国連査察官たちの現状把握や、平和を希求した世界の多くの市民の認識と比べれば、ブッシュ43同様、愚かしく見えもするのであるが。)

さて、日本はアメリカとは違うのだから、その政策決定が現実主義的であるか否かには、別の要因も入ってくるのであろう。日本がさまざまな意味でアメリカ合州国に依存している中では、アメリカにたてつかず、共同歩調をとることこそが国益にかなった現実主義だと考える人もいる。現政権はまさにそのように考えて合州国のイラク侵攻を支持し、占領に加担したわけだ。それはそれなりに、理解できない考えでもない。

しかし、私にはあくまで、狂信的に行動する合州国に付き従うことが現実主義的な判断だとは思えない。泥沼とか崖っぷちに向かってまっしぐらに走っていく親分の横を併走するのが本当に賢い子分だと言えるのだろうか。

人が助けを待ち望んでいる時、苦しんでいる時、手を差しのべることがいけないわけではない。どうしても手を差しのべなくては気が収まらない時(あるいは、国内外の世論が納得しない時)というものがあるのも事実だ。しかし、やみくもに川の流れの中に入っていくことが溺れかかってる人を救う最善の方法ではない。それをちゃんと見極めるのが、そして正しいやり方を探そうとするのが現実主義というものなのだろう。

私たちがイラク戦争と占領に反対してきたのは、決して空想的な平和主義だけによるのではない。武力によって中東の問題が解決できるという非現実的な考え方に反対してきたのだ。

その非現実的な思考を頭の中で反芻し、お題目のように繰り返して口に上らせることによって、それが真っ当な考え方だと信じ込んでしまった二人の男たちが、今日、私の街にやってくる。

2005年 11月 15日 午前 12:29 | | この月のアーカイブへ

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受信: 2005/12/04 23:38:29

コメント

「ランド・オブ・プレンティ」を観てきました。
彼(ヴェンダース)が現実主義者であるかは分からないが、空想主義者ではないと思う。
この映画の粗筋や見てくれで批判(否定的に)をしている方々の「現実主義」とも、このブログで書かれている現実主義とも、また違う視点であると私は思った。
彼は、正解を求めてはいない。
それでいて志がある。 未来を見つめるためには、楽観も必要なのだろうか。と、少し気が楽になった作品だ。
理論武装に追いついて行けない方々に、如何に道筋を与えるかも、この世界の課題なんだな、とふと思った。

投稿: しぇんて | 2005/11/15 1:21:19

しぇんてさん、コメントありがとうございました。
http://landofplenty.jp/ ですね。もう関西でもやっているみたい。見に行ってみようかな(実はこの半年、映画を一本も見ていません)。

投稿: うに | 2005/11/16 0:44:30

とっくに対米貿易量を対中貿易量が追い抜いたし、米国債購入額では香港+中国に抜かれ、リアリズムでは、米国が親分ってのさえ、時代遅れになりつつあります。
中国は野蛮とかっても、日本の伝統を蔑ろにするもので、漢字文化圏を何と思ってんだか?機械仕掛けのティラノサウルスが追いかけてくる時に、逃げ場を選ぶ悠長さは命取りです。
軍産石油複合体から逃げ切りましょう!その為に兵器の製造者責任の追求では?特にファルージャ虐殺とか、バクダッド空港攻防戦のモアブとか、問えますよ!?

投稿: 田仁 | 2005/11/16 13:50:56

田仁さん、コメントありがとうございました。私、勉強不足でお話がよく理解できていないため、気の利いたお返事ができません。長い目で見てやってください。えっ、そんな悠長なことを言っている場合じゃない? たしかにそうかも。

投稿: うに | 2005/11/17 1:20:56

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