「ハンセン病文学全集」を図書館に!
ハンセン病で強制隔離された元患者の詩や小説などを集めた「ハンセン病文学全集」(皓星社)がなかなか売れない。頼みの図書館も買い渋る。理由は全10巻(うち既刊7巻)で1巻4800円という価格だ。元患者の高齢化が進む中、発行元や編集委員は「図書館の蔵書として広く後世に残したい」と訴える。
BOOK アサヒコム:出版ニュースより。出版の経緯や収録作品の紹介などの後、記事は次のように終わっています:
ある図書館の関係者は「小さな図書館の予算は限られている。『ベストセラーを読みたい』という市民の要望に応えるのも図書館の役目なのです」と説明する。
加賀さん(全集の編集委員、作家の加賀乙彦さん)は話す。「隔離され、病気や患者たちの真の姿が知られなかったことが差別や偏見を温存させた。この全集には民主主義が見落としてきた問題が記されている。図書館は貸出率だけに目を奪われず、よい文学を残すという使命を果たしてほしい」
私は、ハンセン病患者・元患者の書いた文学作品は「いのちの初夜」の北条民雄(リンク先は青空文庫)ぐらいしか読んだことがありません。「いのちの初夜」には、小説を書こうとしている佐柄木が、主人公の尾田高雄に
「とにかく、癩病に成りきることが何より大切だと思います」
「誰でも癩になった刹那 に、その人の人間は亡びるのです。…けれど、尾田さん、僕らは不死鳥です。新しい思想、新しい眼を持つ時、全然癩者の生活を獲得する時、再び人間として生き復 るのです。」
と語る場面(私にはかなりの衝撃でした)があり、その思想による“救済”(ないし世界の理解)を著者が目指していたのではないかと思うのですが、彼の他の作品を読むと、この佐柄木の言葉とは違う目で世界や自分を見ているようにも思われます。一人の作者の中でもそうなのだから、同じ病気を患っていたといっても、一人ひとり、そして時代によって、異なった生き方、とらえ方をしていることを、きっとこの全集の作品群は教えてくれるのでしょう。
残念なことに、私はハンセン病元患者の人たちの苦難について、ほとんど何も知らずに来てしまいました。そういう問題について知ろうと思った時、助けてくれる、頼れる図書館であってほしいと思います。
図書館への購入申し込みが書きやすいように、全集の既刊分について少し冗長に書誌情報を記載しておきます。全国の図書館に「ハンセン病文学全集」を!
- ハンセン病文学全集 第1巻 (小説1)加賀乙彦・編 皓星社 2002/09 ISBN:4774403903 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第2巻 (小説2)加賀乙彦・編 皓星社 2002/10 ISBN:4774403911 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第3巻 (小説3)加賀乙彦・編 皓星社 2002/11 ISBN:477440392X 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第4巻 (記録・随筆) 鶴見俊輔・編 皓星社 2003/03 ISBN:4774403938 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第6巻 (詩1)大岡信・編 皓星社 2003/10 ISBN:4774403954 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第7巻 (詩2)大岡信・編 皓星社 2004/02 ISBN:4774403962 5,040円(税込)
- ハンセン病文学全集 第10巻 (児童作品) 鶴見俊輔・編 皓星社 2003/06 ISBN:4774403997 5,040円(税込)
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(表紙の画像は電話で皓星社から許可をいただいて掲載しました。著作権の問題を扱うブログとしては、ちょっとビミョーな処理ですが、オビの「もう一つの流れをつくる」という文字の誘惑に負けてしまいました。)
(どんどん話がずれて行きますが… 皓星社のサイトでオンライン・アーカイブという興味深いプロジェクトを発見。)
2004年 12月 7日 午前 12:04 | Permalink | この月のアーカイブへ
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受信: 2004/12/23 18:16:27
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コメント
>私は、ハンセン病患者・元患者の書いた文学作品は「いのちの初夜」の北条民雄(リンク先は青空文庫)ぐらいしか読んだことがありません
そんなうにさんに「火花」高山文彦作(飛鳥新社発行)をお薦めします。
高山さんが「北条民雄」という一人の作家を緻密に調査をされた結果生れた珠玉の1冊です。「大宅壮一ノンフィクション賞」と「講談社ノンフィクション賞」をダブル受賞しました。
投稿: ten | 2004/12/07 9:14:49
ten さん、ご紹介ありがとうございました。仕事の帰りに本屋に行って、「火花」を買ってきました。(角川文庫で出ていました。)
ところで ten さん、もうすぐ年が変わりますが、夏に話し合っていた件(青空文庫の作品紹介)、どこかでブログを借りて始めませんか。
投稿: うに | 2004/12/07 23:06:44
文庫になっていましたか、それは知りませんでした。手元の単行本をお送りしても良かったのですが・・・
加賀乙彦さんの編集員としての講演を皓星社のサイトで公開しています。そこで加賀さんが語っていらっしゃるように、北条の文体が当時の文壇を動かしたのですね。最後まで北条に付き合った川端康成が北条に観ていたものは何だったのでしょう・・
そんな川端とはまた違った高山さんの眼差しを味わってくださいね。
投稿: ten | 2004/12/08 9:06:29
お久しぶりです。たまたまハンセン病文学集のことを検索していてウニさんのブログに行き当たりました。私は図書館から借りた一巻を読んでいます。栗生楽泉園にいた名草良作の作品を探しいて、結局収録柞二編は探していたものではなかったのですが、ハンセン病文学の奥の深さに驚いているところです。
投稿: tae | 2016/12/06 20:35:42