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2004.05.05

南北戦争のころ

アメリカ合衆国北東部、ニューハンプシャー州に19世紀の半ば、Harriet Wilson という黒人女性が住んでいた。彼女が自分の体験をもとに書いた小説、おそらく黒人女性の手による最初の小説が AP電記事で紹介されていた。1859年に出版されたこの小説の名は Our Nig; Or Sketches From the Life of A Free Black という。喜ばしいことに、私たちはこの作品を Project Gutenberg で読むことができる

合衆国を離脱した南部諸州に対し、北部諸州が奴隷制度の撤廃を大義に戦い、その勝利によって全米で奴隷解放が達成されたことを私たちは歴史の授業で習うわけであるが、ここに描かれた北部に住む主人公 Frado の理不尽な暴力に堪え忍ぶばかりの生活は奴隷のそれとほとんど変わるところがない。

南北戦争が自由や人権をめぐる戦争であったことは揺るぎない史実であり、戦うべき戦争、道徳的な戦争というものがあるとすれば、これはその好例として示されるものであろうが、その大義を唱える国/社会内部の道徳はどのようなものであったかという興味深い問題を私たちはこの小説の中に見つけることができる。

人種または民族に対する偏見を持つ人たちの行ないは、昔も今も、あるいは国が違っても、なんと似通っていることか、ということにも私は驚かされた。それとともに、見下され虐げられた人たちが、その境遇にも関わらず強い自尊心を持っているという、考えてみれば「当たり前」のことにも、私は強く心を打たれた。もちろん、虐げられた人たちの "soul" や誇りの問題は、20 世紀後半の公民権運動の歴史を見ることによっても、知ることができるのであるが、工業化・資本化初期においても外面(社会)も内面(人の精神や心)も全く今と変わらないものであったことは、非常に私には興味深く感じられた。

現在との同一性の認識は、文体の異質性によって、より鮮やかに感じられたのかもしれない。主人公がある家に託され、18 歳になってそこを出るまでの日々の描写は生き生きとしていて、さほど時代の違いを感じさせないが、冒頭や末尾の章は、かなり古くささを感じさせ、文学性の点からも難があるように思われる。その点を差し引いても、読む価値のある資料であることは保証できるし、おもしろく読める本であることは間違いない。

2004年 5月 5日 午後 11:58 | | この月のアーカイブへ

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