« 「戦争のつくりかた」を広めよう! | トップページ | 教育のはぐくむ希望 »

2004.05.31

無援の抒情

二年ほど前に買った道浦母都子さんの『無援の抒情』(岩波現代文庫)を読み返した。冬の歌や、女の性を読んだものが多いが、ほぼ季節的にも、年齢的にも、そして何よりも情景が今の私にそっくりなものがあったので、思わず微笑んでしまった。この歌集の作品の中では、艶めかしさも心の傷つきやすさも表さない極めて地味な一篇であるが、私にとっては、ほかにも全く同じような生を生きている人が存在すること、つまり、自分が「無援」ではないことを教えてくれて、とても心強かった。

四月去り五月も半ば鬱々と卒塔婆のごとく本重ね過ぐ

もちろん、おそらく道浦さんがこれを書いた部屋とは違い、私の部屋に散らかっているのは本だけではなく、脱ぎっぱなしの衣服だったり、古紙回収の日を逃してしまったために溜まってしまったチラシ類だったりもするのだけれど。(ちなみにこの歌集には、本に関しては「本は凶器 本本本本本本本本本本本 本の雪崩」という、阪神淡路大震災を詠んだかなりダダイストな歌も収録されている。)

今はしかし、私だけでなく世界に必要な勇気を与えてくれる歌を書き留めておくこととする。一篇目が1968年10月21日の新宿駅「国際反戦デー」騒乱のころに書かれたもの、二篇目が1980年代の作品である。

「今人間であろうとすればデモに行きます」父の視線よ肯きていよ
たましいが兵器を越えしベトナムを神話のごとく思い出すなり

私はベトナム戦争も既に終わり、学生運動が下火になって久しい1980年代に大学に通ったので、道浦さんが味わったような運動の昂揚も、思想的な苦悩も、検束の恐怖も、挫折も味わったことがない。しかし今また世界は大きな混乱の中にあり、道徳はその混乱に何の責任もない第三者のふりをすることを私たちに許さない。そのせいか、私は、道浦さんが加齢してから詠んだ枯れ錆びた歌よりも、これらの、若く、悩み苦しみながらおくった闘争の日々の歌のほうにより強く繋がりを感じる。

一つ気になること。この歌集の冒頭近くに、次の歌がある。

催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり

柑橘類は催涙ガスの効果の軽減に有効なのか?昔、見た映画『いちご白書』(あるいは原作の本のほうだったかもしれない)では、たしかワセリンを勧めていたし、最近見た『ラブストーリー』では、練り歯磨きを目の下に塗る場面が出てきたのだが…

2004年 5月 31日 午前 06:44 | | この月のアーカイブへ

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 無援の抒情:

コメント

>四月去り五月も半ば鬱々と卒塔婆のごとく本重ね過ぐ

思わず我が家の事を言われているかと・・・

道浦母都子さんの歌と言えば、この歌もありますね。

「お前たちにわかるものかという時代父よ知りたきその青春を」

昨日、デモに出た学生が携帯で自分の父に報告しているのを眺めながら、ふと思い出したのがこの歌でした。

帰宅したら、この記事がアップされていたので、驚いています。

投稿: Juki | 2004/05/31 12:54:43

 盆の日にしんみりと読ませて頂きました。
道浦さんと同年で、全共闘世代ですが、彼女の名前は知っていても、歌集は一冊も読んだ事がありません(-_-;

当時は中野重治の『歌の別れ』を例に、「赤マンマの歌を歌うな」と文芸サークルの連中に、今は詩や歌を詠んでいる時ではないと煽っておりました(>_<)

 レモンは酸で催涙ガスを中和するとかで、持つ人もいましたよ。私は使った事はありませんので、効果の程は知りません。
 突っ込むか、逃げるかでレモンを使う余裕など無いのが現実でした(^_^)

投稿: 野梵 | 2012/08/15 13:48:49

野梵さん、

コメントをいただいたのに気がつくのが遅れました。すみません。

催涙ガスには、アメリカで出ている胃酸過多の薬 Maalox というやつを薄めて使うのが効果的であると、最近、知人から教えてもらいました。今のところ、使う機会はありません(笑)。

投稿: うに | 2012/08/16 22:53:20

コメントを書く