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2004.04.21

茶色の朝

読みたいと思った本がすぐ手に入るのは幸せなことである。大きな街に住んでいて、良心的な品揃えをする書店が近くにあることに幸福や感謝の気持ちが自然と沸き立つ。手に入れた本が愛おしく思えるようなものであったなら、それはなおさらである。

フランク・パブロフさんの『茶色の朝』。最近、この書名をいくつかのところで目にして、気になっていたのだが、朝、体調が悪くて家の中でぐずぐずと過ごすうち、ちぇしゃさんという方のウェブログでこの本の紹介を読み、すぐにでも手にとってみたいと思った。出勤途中に立ち寄った本屋で、この小さくて美しい本は、私が来るのを予期し、書棚で待っていてくれたらしい。数分で読み終えてしまうような短い話であるが、私の期待はみじんも裏切られはしなかった。これは抱きすくめたくなるような本である。

帯には、「これは昔々ある国に起こったおとぎ話じゃない」「反ファシズムの寓話」だと書いてある。同じ範疇に入る本を私はこれまでに何冊も読んできた。だからこそ、今の私がいるのだとさえ思う。それらの本の中でも、『茶色の朝』の訴える力は圧倒的に強く感じられる。著者や翻訳者の力量であろう。

私と同じようにこの本に感動した読者は、今私が書いた「著者や翻訳者の力量であろう」という文の推量のモダリティに、私のはかない期待が込められていることを読み取ったはずである。実は、この本が私の心を強く揺り動かしたのは、書き手たちの力だけではなく、描かれた世界と現実との間の近似によるところが大きい。話の中の世界に無理なく入っていくことができ、主人公にいとも簡単に感情移入ができることを、今を生きる私たちは衝撃をもって発見するのである。例えば、20年前の節目の年にジョージ・オーウェルを読んだ時よりも、読者は自分の世界と物語の世界を隔てるガラスがはるかに薄くなっていることに気が付くだろう。そして、そのガラスが割られる日は決して遠いとは思えない。口元に薄笑いを浮かべ、石を握っている者が私たちの中にも数多くいるからである。

4月20日―すでに昨日になってしまった―は、なぜか私の知り合いに誕生日の人が多い。一昨日コメントをくれた青空文庫の富田さん、前の職場のHさん、現在の同僚のTさん。私は思い立って再び書店に行き、Tさんに贈るため、もう一冊この本を買った。誕生日おめでとうございます。来る年も来る年も、この友人たちの誕生日が彩りゆたかなものであり続けることを祈る。いや、そうあり続けさせるため、私は力を尽くす。

2004年 4月 21日 午前 12:13 | | この月のアーカイブへ

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コメント

こんにちは。トラバさせていただきました。
考えさせられる本ですよね。
最近、こういう本がちらほら目にはいってきます。(トシでしょうか?)
来年も再来年も、豊かな日を送りたいですよね。

投稿: freeplanet | 2005/10/25 11:06:25

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