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2004.03.08

同時代の世界文学サイト、北朝鮮の現代小説

http://www.wordswithoutborders.org/ ― 北朝鮮、イラク、イランなど、紹介されることの少ない国々の作家による同時代の短編小説等が英語に翻訳されている。まだ始まって一年に満たないほどのサイトのようであるが、収録作品数の少ない現在でも十分に見る価値を持っている。今後の発展に強く強く期待を抱く。文学を愛する人、多様性の価値を信じ積極的にそれを探そうとする人に推したいと思う。

2ちゃんねる的な悪い空気(排他的な思想の共同化)にネットが溢れんばかりになる中で、「インターネットが普及し電子テキストの流通が盛んになってきた現代に生きていて本当によかった」と感じさせてくれる、清涼剤のようなサイトである。

2003年9月号の北朝鮮特集の中から、Han Ung-bin という作家の "Second Encounter" と題された作品を読む。冒頭の一節によれば、1999年に書かれた作品のようである。1980年代の終わり頃にピョンヤンで開かれた World Youth Festival の取材に訪れた西側のジャーナリストと、通訳として付き添った北朝鮮の男性の間のやり取りをめぐる短編。“労働者の楽園”という理想を信じる北朝鮮の人たちと、「失業者がいない」「住居は国から提供されていて家賃を払う必要がない」社会を全く理解できない西洋人の間のカルチャー・ギャップを主題としている。おそらく、北朝鮮社会を礼賛する作品として公表が認められたのだろうが、作品のもっとも根底に、著者の抱く不安感を見ることができる。日本のニュースなどで時々流される、やたら勇ましいアナウンサーでもなく、声を聞くことのできない、隠し撮りされた栄養失調の子供たちでもない、私たちとさほど変わらない生の人間がここには描かれている。

この作品を読んだからと言って北朝鮮についての洞察が深まるとかという魔法ではないだろうし、ここから得る印象によって独裁体制のもたらす惨状から目を逸らしてはならないと思う。しかし、社会やそこに生きる人々をあまりに安直に、あるいは民族差別的に語る人たちの声の大きさにうんざりとしている私にとっては、この作品はかけがえのない窓を提供してくれたのである。

2004年 3月 8日 午後 08:42 | | この月のアーカイブへ

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